一章 十話:婚約者(二節:反撃) ※本編
修学旅行四日目昇華(しょうか)学院高等科の修学旅行生が帰国するその日に起こった事件。
全ての観光客が待機所に集められカルヴァーノファミリーの者達の人質となっていた。
この時点で既に時刻は十八時である、郡城と軍司令部はグリア軍に制圧され、カルヴァーノファミリーの生き残った一党は待機所に逃げ込んできていた。
今回の首謀者はロミオ・カルヴァーノと言う人物であると、シーやエルフ達は高彬に知らせていた。
そして始めにこの待機所にいた四十人強の一味と後からやって来た十名ほどを合わせて五十名近くがここに立てこもり人質をたてにしていた。
彼等は犯行声明も出さず、要求はただ一つ女王を出せの一点張りだった。
これに対しグリア人絶対に要求を呑むことはしなかった、それ故に数名のグリア人が既に殺されている、しかも観光客を守ろうとして怪我をしている者すら居た。
「アイツ等やりたい放題だな……」
「ねぇ萩島君はどうするつもりなんだろう」
「犯人の数が多いんじゃないの?」
大槻と朱美や加奈子の言葉を片隅に、高彬は静かに床に手を当ててソーマを高め状況を知ろうとした。
そしてこの場所にいる者以外の場所の犯人一味をシーやエルフ達の協力のもと高彬は力を使って殺していた。
「ボス、外の様子が変ですぜ」
「何っ?」
「ちょっと様子を見てきます」
「あぁ気をつけていけ!」
高彬はこの時だと思い床から手を離して隠し持っている銃を取り出した、それを見た教師や加納達は声を上げようとして高彬から凄まれ慌てて口を押さえる、その眼は今まで見たこと無い程怖い眼であった。
ただ大槻だけはその銃を見て納得したのだ、そこにはグリア王室の紋章が刻みつけられているのだ、しかもただの紋章ではない。
「どうした、アイツ戻ってこねぇじゃないか!」
「おい、誰か見てこい!」
ボスがそう言った時、高彬は素早く立ち上がり近くの犯人を全員撃ち殺し、反対側は手の平からソーマ弾を撃ち犯人を殺した、それに習うかのように銃の持っているグリア人は一斉に反撃に出た、また高彬に指示をされていた日本人は英語と日本語でそれぞれ叫んで一般の観光客に頭を低くさせていた。
「貴様ぁ~~!」
「お前は許さない、だが殺しはしない!」
「殿下!」
高彬がロミオ・カルヴァーノに対して銃を向けた時、カルヴァーノの傍にいた一人の犯人が高彬に銃を向け撃ってきた、グリア人が相手の腕に銃撃をし高彬は直撃を免れたが腕を掠り血が流れた。
「萩島君!」
「高彬!」
高彬は痛みに顔を少し顰めただけで、そのままロミオ・カルヴァーノに対して手足に銃を撃ちに抜いていた。
犯人が全員その場で打ち抜かれ、辛うじて命拾いした者達はグリア人の手によって縛り上げられている。
そこに外を制圧したグリア軍が入ってきた。
「殿下!」
「ストーン中将!」
「お怪我をなさっておられるのか、誰か早く殿下のお手当を!」
「私よりも観光客や他の怪我人の手当が先です」
「わかっております、ですが殿下の方が先でございます!」
ホセ・ストーン中将はそう言いながら軍属のホテル従業員やその他のグリア人達の様子を見て回り始め、次々と指示を出し始めた。
「萩島君大丈夫なの!」
「大丈夫ですよ、それより皆は怪我はありませんか?」
「俺たちは無事だよ!」
「萩島、何でお前が銃を持っているんだ!」
「これは私の銃ではありませんよ」
『これが犯人か?』
クラスメート達や教師達が高彬の側に来て色々と話しているとき、見事な長い髪を靡かせて入ってきた人物が言ったのだ。
まわりのグリア人は全て叩頭、または跪拝をして出迎えていた。
「姫提督……」
「アレってフェリシアさん?」
「高彬、コイツか?」
「そうだよ、でも親玉ではないみたいだな」
「親玉ではないのか?」
「そうらしい……」
サヤは怒りを見せながらも高彬の無事な姿を見て少し笑みを浮かべた、そして近くに来てその頬に手を添えキスをした。
「怪我をしたのか」
「かすり傷だ、それにお前が預けてくれたこれのおかげだ」
高彬はそう言いながら王家の紋章とサヤの徽章(しるし)の刻み込まれた銃を持ち主に返した。
サヤはドンの町いるテト・セリエ郡長の所に直接行き、自分の銃を預けていたのだ。
「……久しぶりだな加納達に、町田だったかな剣道部の顧問とやらだったか?」
「あっ……」
「フェリシア、さん……」
サヤは見知った者達に声を掛けながらも周りを見回し怪我人を見つけると、怪我人を病院に、犯人達は司令部に連れて行くようホセ・ストーン中将に命じていた。
高彬はそんな彼女のそばで救護兵達の応急処置を受けながら、指示を出す彼女を優しい笑みで見つめている。
そして昇華(しょうか)の者達は突然の再会と、いったい彼女は何者だという疑問で呆気にとられている、ただこの人物が誰であるか知っている大槻はジッとサヤを見つめていた。
「でぇ親玉ではなければ一体何だ?」
「それは彼が教えてくれる」
「彼……、お前は誰だ?」
高彬が言った人物は大槻である、最初の犯人達の情報を持っていたのは彼だったのだ、その為知っているだろうと高彬は思った。
名指しされた大槻はサヤと高彬の前で一礼をしながら自己紹介をした。
「お初にお目に掛かりますフェリシア皇女(こうじょ)、私はフリーカメラマン兼任ジャーナリストの大槻圭介と言います、此度の一件について高彬殿下に協力を申し出た者でございます」
大槻の自己紹介を聞いて昇華(しょうか)学院の関係者達は驚きの声を上げていた、まさかサヤ自身がグリア王家の人間であるとは思っていなかったのだ。
そんな彼等を余所に高彬は相変わらず微笑を見せながらサヤと大槻の話を聞いている。
「わざわざ高彬に協力を申し出るとは、お前いったい何が望みだ?」
「それは殿下にお伝えしております」
「そうなのか?」
「あぁそう言う約束だったからな、でぇ大槻さん教えてやってください、私も知りたいんですから」
この三人の会話は全て日本語でおこなわれているため、昇華(しょうか)学院高等科の者達も全員理解されている。
「……コイツが言っていたトップシークレットってこういう事だったのか」
「どういう事だ加納!」
「高彬がここに来るときの機内で言っていたんですよ、婚約者については夏休みが終わればわかるって、しかもこれ以上にないトップシークレットだって」
「つまり萩島はグリア次王の婚約者……」
三人が犯人について話している間、高彬の周りにいる者達唖然とした表情で高彬とサヤを見つめていた。
今まで普通の同級生としてまた生徒として接していた相手が、よりによってグリア王国次王の婚約者つまり、自分たちよりも遙かに身分が違いしかも世間で最も恐れられている女性の伴侶となる相手だったとは思ってもいなかったのだ。
「なるほどそう言うことか……」
「連中懲りない奴らだなぁ」
「連中はどうあってもグリアをものにしたいと思っていますからね、それに小さなファミリーなら名をあげたいと思っていますし、利害一致だと思います」
「なるほど……、だがバカバカしいだけで済ますわけには行かないな、今回のこちら側の被害は大きすぎる」
怒り心頭のサヤを高彬は慰めるように髪を撫でる、そんな彼等を見ながら大槻は似合いの二人だと納得した。
そしてサヤは暫く何かを考えると、その場から離れてテトを呼び出した。
「テト、観光客を全て元いたホテルに収容させろ、ホテルにチェックインできない者はこの待機所に収容、上は無事だったはずだ、それと同時に補強工事開始しろ」
「高彬殿下、私との約束は?」
「私のことを世間に言いたいんでしょ?」
「よくお解りで……」
「構いませんよ、一番始めに書くことを許可しましょう、どうせ夏休み明けには公表する予定でしたから」
「えっそうなんですか?」
「えぇあなたが世間に流した後に公式発表とします、ですから直ぐにホテルに戻って記事を書いてください」
「ありがとうございます、出来ましたら写真を撮らせて欲しいのですが?」
高彬は苦笑しながらサヤを呼び、二人の写真を大槻に撮らせることを許した、半分抗議する彼女を宥め賺したのは当然高彬である。
大槻は写真を撮って直ぐに自分のホテルに直行し、残された者達はテト・セリエ郡長の言葉に従い、それぞれのホテルに引き上げ始めた。
「萩島……」
「何ですか?」
「俺たちはどうなるんだ?」
「どうって、どうもしませんよホテルに戻っていただければそれで良いです」
「だから帰国できるのか?」
「それは後でお知らせいたします、とりあえず先生方は生徒達の不安を取ることだけに専念してください」
高彬はそう言うと、グリア人達の中に入っていき何か話を始めている、今度はグリア語で話されているためさっぱり理解が出来なかった。
仕方なく教師達は生徒達にホテルに戻らせることにし、高彬はホテル従業員や他のホテルの幹部達を集めて何かを話していたので、彼だけを置いていくことにした。
時刻は既に二十時を回っていた、ホテルに戻ってきた観光客はみな一階にあるフロントロビー集まり従業員に詰め寄っているが、まだ確かな情報が寄せられているわけではなく、それぞれが不安な時間を過ごしている、それでも食堂や他の店は開けていたため、食事には問題はなかった。
ただ今日帰国する予定だった客にとっては今後の宿泊費など不安材料が多すぎてフロントに行く事が多かった。
昇華(しょうか)学院高等科も例外ではなく、教師達は集まって食事をどうするか宿泊費をどうするか会議をしていた、また生徒達はそれぞれ携帯電話や公衆電話などから自宅に電話する者も続出しているが全く通じず、更に混乱を増していた。
「あのぉ失礼いたします」
「あぁえっと……」
「私は副支配人のセディ・アルボアです、高彬殿下からの御伝言で昇華(しょうか)学院高等科の方々には昨日を同じ二階の大広間で夕食を食べて貰うようにとの事でございます」
「萩島から?」
「はい、殿下ももう少ししたらお戻りになるとお伝えするようにとの事でした」
教師達は皆顔を見合わせてどういう事かと訊ねてくるが、詳しい事は何も聞いていないとの事だった。
「あの準備は?」
「既に整ってございます」
「わかりました」
二階の大広間に集められた生徒達は用意されている食事を見て驚きの声を上げている、そして食べても良いのかという不安があったが、教師達の説明でとりあえず食べることにした。
「なぁ萩島が良いって言ったんだよなこれ?」
「先生の話じゃそうなんだろうなぁ」
「でもぼく達今日出発の予定だった筈なのに、宿泊費とかどうなるんだ?」
「その辺の説明は一切無かったわね」
生徒達はそれぞれの疑問を口にしながら夕食を食べていた、三日目の夕飯からはバイキング方式だったため、好きなものを好きなだけ食べられると男子達は喜んでいた。
また女子もデザートや飲み物が食べ放題と言うことで嬉しそうにしている。
ただ教師達はそれどころではない状況に溜息と高彬の事で話し合いを始めていた。
それは生徒達も同様だった。
「まさかあの萩島がグリア王国次王の婚約者とは……」
「木田先生はご存じなかったんですか?」
「知りませんでしたねぇ」
「加納が言うには萩島家でも知っている者はわずかだったんだろうって言っていますね」
「そうなんですか?」
「アイツは幼なじみで萩島家には何度も行っているらしいんですけどね、あちらのご両親からは婚約者がいると言う話しは聞いたがそれ以上の事は教えて貰ってないって言っていました」
町田は剣道部顧問である、彼等のことは適度には知っているのだ。
加奈子:「萩島君って私達とはかけ離れて身分が違っていたのね」
毅:「何で俺にも内緒にしていたんだ!」
高彬:「色んな所で迷惑を掛けるわけにはいかなかったからですよ」
大槻:「殿下! 本当に良いんですね公表しても?」
高彬:「構いませんよ」
校長:「そんな事より、今後はどうなるんです!」
高彬:「心配しなくても、ちゃんと帰国できますから……それより誰か予告をお願いします」
朱美:「はいはい、ちっとも私話してないじゃない! では次回 『十話三節:滞在延長』!」
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