一章 十話:婚約者(三節:滞在延長) ※本編
グリア王国滞在四日目本来なら帰国するはずの昇華(しょうか)学院高等科はカルヴァーノファミリー一党に足止め強いられ、再び泊まっていたホテルに戻ってきた。
そしてチェックアウトした筈なのに、こうしてホテルで夕食を食べているのは何故なのか、今後どうなるのか生徒を始め教師達も疑問に思うことばかりで、あまり楽しい食事とはならなかった。
そんな食事の終わりかけた頃、同学院の生徒でグリア王国次王の婚約者とバレてしまった萩島高彬が戻ってきた。
「萩島!」
「萩島君!」
高彬は幾人かの護衛を従え既に衣服も制服ではなくグリア人と同じ古代中国漢服に似た服装だが、冠などはしていない。
そして副支配人セディ・アルボアの誘導でこの大広間に入り、まずは教師達の所に行く。
「萩島、お前今まで何処にいたんだ?」
「すみません、怪我の治療と今後のことを協議していたんです」
「今後のこと、そうだ帰国は出来るのかね萩島君!」
「校長先生申しわけありませんが直ぐに帰国は出来ません」
「何だと!」
「とにかく、今から皆に説明しますから聞いていてください」
高彬はそう言うと副支配人からマイクを貰い受け生徒と教師に向かって話し始めた。
「説明が遅れて申し訳ないB組の萩島です。これから今後の事を説明しますので全員良く聞いてください、暫く空港は閉鎖されます、その為皆さんの滞在は延びることになりご迷惑をおかけすることをまず始めにお詫びいたします」
「萩島、いったいどういう事だ!」
「先生方も聞いていてください、伸びた滞在期間中の宿泊費は一切掛かりません、またホテル内の食事に関しても指定の場所での食事は無料とします、そして行動の自由は保障されます、ただ立ち入り禁止区域がいくつか増えていますのでその場所には行かないで下さい、軍兵が立っていますのでわかると思います、また観光区域にいるグリア人は全て軍属の者です、何かあった場合は指示に従って下さい」
「ちょっと質問、家に電話はいいの?」
「通信に関しては制限しませんので自由にして貰っても構いません」
「繋がらないって話しなんですけど!」
「現在通信網は復旧しています」
「じゃ帰国はいつになったら出来るんですか!」
「空港の準備が整い次第と言うことになります、国内の情報に関してはテレビで情報を取って下さい、チャンネルを回すと日本語放送があります」
高彬は生徒達の質問に的確に答えていった、そして最も重要な質問を別のクラスの者がした。
「ところでB組の萩島君とやら、どうしてあんたはそんな情報を知っているんだ? 本当なら先生が話すべきだろう!」
「……先生話していなかったんですか?」
「お前から直接聞いたわけでもないし、グリア王国からの公式発表でもからなぁ、言えないだろう」
高彬はなるほどと思いながら小さな溜息を付いた、そして自分の正体を明かしたのだ。
「私は日本人ですが、この国の次王フェリシア皇女(こうじょ)の婚約者です、既にグリア人としての扱いを受けていますので、グリア王国代表として皆さんに今後の説明をさせて頂きました」
本人の口から聞く言葉に部屋が騒めき立っていた、また教師陣は深い溜息と驚きの表情が交差して高彬の姿を見ていた。
「えっと明日ですが、先生方からの予定が無ければ一日自由時間と致します。明後日ですが九時にフロントロビーに集合して下さい、閉鎖していた美術館を開放出来そうなので、予定通り見学をして頂きます」
ここでいきなり二日間の予定が立ってしまった事で、皆更に騒めき立っていた。
その時、部屋に一人の人物が入ってきて高彬の傍で叩頭しグリア語で何かを報告している、これは誰も理解できなかった。
だが高彬は一つ頷くと、その人物は再び深く叩頭して部屋を出て行く。
「私からの報告はこれで終わりです、他に何か質問があればフロントで聞いて下さい」
高彬はそう言うとマイクを副支配人セディ・アルボアに渡し、加納達の所へ歩いていった、それを追いかけるように町田と木田が付いてきた。
「萩島、部屋のアレはどうなっているんだ!」
「それは心配ありません、皆さんが食事中に全て除去するように命じましたので、さっきの報告は除去が完了したと言っていました」
「じゃもう大丈夫なんだな?」
「えぇ、あそこで言わなかったのはこれ以上の混乱は必要ないでしょ」
「確かに……」
高彬は教師達の不安を取り除いた、そしてそれをそっと加納達にも話したので彼等もホッとしていた。
教師達は高彬の説明を聞いて、食事を済ませた生徒達に部屋に戻って寝るようにと告げ、自分たちもまた広間を後にしようとした。
「そう言えば萩島君、夕食は?」
「司令部で食べてきました」
「司令部……」
「本当にグリア王国次王の婚約者なんだなぁ?」
「そうですよ、だからトップシークレットだって言ったでしょう」
クラスメート達は唸りながらそう言えば言っていたなぁと思い出していた。
彼等は共に部屋に向かい、朱美達と離れてエレベータを下りると兵士達が立っているのに驚いていた。
彼等は高彬の姿を認めると叩頭し出迎えていた、それを生徒や教師達は戸惑いながら見ていたが、高彬は当然のような表情で通り過ぎた。
また高彬の部屋の前にも二人兵士が立っていて、彼等もまた同じ様な行動をし更には扉を開ける。
「じゃ先生お休みなさい」
「あぁおやすみ……」
高彬が入り加納と井上が入ると今度は部屋の中に一人の男が叩頭していた。
三人は驚いたが、直ぐに高彬が苦笑する。
「久しぶりだね」
「一年ぶりにございます殿下」
「誰?」
「紹介しましょう、彼は私の侍従でジン・スフィルと言います、ジン加納毅君と井上晃尚君だ、私の友人だから覚えておきなさい」
オーキッドミストの髪と瞳を持つジン・スフィルは深く叩頭し日本語で二人に挨拶をした。
二人は確かに上流階級に属するのだが、個人に付く侍従等という者は雇っていない、またこういう挨拶にも慣れておらず戸惑いながら挨拶を返していた。
「ところでお前は何故ここに来たんです?」
「ユパ様のご命令により、殿下のお身の周りのお世話をするようにと……」
「……学教行事で来ていると言っておいたのに、仕方ない者だなアレは」
高彬は苦笑して命じたユパの顔を思い出していた、そして未だに居心地悪そうな友人二人が高彬に質問した。
「なぁ高彬」
「何です?」
「あのドアの外にいる兵隊さん達は何?」
「私の護衛」
「……安全な人達、だよな?」
「当たり前です」
不思議そうに答える高彬に二人はジッと高彬を見ていた。
彼等はここ一連に出くわした犯人側の偽兵隊を知っているから不安なのだ。
「大丈夫ですよ、彼等は乾坤門(けんこんもん)の奥から来た者達だから、元々こちらにいた部隊の者達は殆どいないと思っても良いです」
「どうして?」
「殺された方が多いし、突然死や病気になった者がいます」
「えっ?」
「グリアには突然死は時々あるんです、これはグリア人だけのことだから心配ありません」
井上は高彬の言葉を聞きながら寝る準備を始めていた、また高彬自身はジン・スフィルが全てを整え着替えを手伝っていた、それを戸惑いがちに見る友人達もそれから暫くして就寝した。
グリア滞在五日目の昨日は一般生徒は完全に自由時間、教師達は臨時会議をし高彬もグリアの郷城での会議や、教師達の会議に引っ張り出されて忙しい一日を過ごしていた。
そしてこの日滞在六日目、高彬の言った通り美術館見学となったのだ、当然高彬が移動するため警護の者がバスの後を追いかけてくる。
暫くして到着した場所には前回のようなビニールシートはなく、ちゃんと建物が見えていた。割と大きな建物だったのだ。
ここで教師達はまず始めに高彬に声を掛けて本当に大丈夫かと確認してきた。
その為彼は教師達と共に受付に行き、午前中は貸し切りであるとの応えを貰い生徒達を入館させた。
美術館の中には絵画、彫刻を始めグリア人の生活がわかるような写真なども展示していた。
「中は凄く広いのねぇ」
「ねぇ写真があるわよ」
館内は自由行動が許されていて零時には玄関前広場に集合となっていた、当然高彬の取り巻きと幾人かの教師は彼と共に行動していた。
一般のグリア人達の生活を撮した写真を見学してから、彼等が行き着いた場所は美術館でも中心に位置する゙王室の間゙を呼ばれる場所である、この部屋は王族の写真や肖像画などが展示されている。
「高彬これは誰だ?」
「それは陛下です」
「陛下?」
「そう現在の女王鶉王(じゅんおう)陛下、フェリシアの祖母です」
「これが女王陛下」
威厳たっぷりで光の加減で赤毛に見える金髪の持ち主である、手には剣が一本握られ椅子に座るか座らないかのような姿勢で写されている写真と、それを模写したかのような肖像画が並んで飾られていた。
またその横には陛下のご夫君であるリカルド殿下の肖像画もあり、夫婦だけや家族と一緒のものもあった。
「おい萩島これは誰だ?」
「それはサイファ第一皇子(こうし)ですよ」
「サイファ第一皇子って事はフェリシア皇女の?」
「えぇ父上です」
「会ったことあるのか?」
「第一皇子は早くに亡くなったって聞いていたけど……」
「そうですね、私とフェリシアが三つくらいの時でしたね、でも覚えていますよ、凄く優しいお方でした」
高彬が懐かしそうに言うので、一同は本当にそうだろうかと思った、あまりに小さいのにそんなの覚えているのだろうかと疑問だったのだ。
「じゃこっちの女性は后妃(こうひ)様?」
「フェリシア皇女そっくりね」
「マリア后妃ですね、確かにフェリシアそっくりですがそれは見た目だけですよ」
「見た目だけ?」
「えぇ」
高彬はそう言いながらサヤの肖像画の方へと足を運び苦笑して眺めていた、それをクラスメート達も教師達も見上げている、確かに見た目はそっくりである、だが覇気が全く違うのだ、アンティークゴールドの髪と瞳を持ち仁王立ちのような格好で剣を持っている、今にも斬りかかろうとするようなそんな雰囲気のある女性だった。
「昨日見た時ってこんな感じではなかったように思うけど……」
「そうねもう少しだけ柔らかい雰囲気が合ったかなぁ?」
「だが怒らせたら怖いんだぜ!」
「大槻さん!」
「よぉまた会ったな」
貸し切りなのに何故いるのかと思った面々だが、それを忘れて大槻の話を聞こうとした。
大槻はカメラを持っていたが撮影する気は無いようである、ただジッとサヤの肖像画の方を見ているだけだった。
「ねぇ本当にコワイの?」
「あぁ歴代のグリア軍提督の中じゃ一番怖いって話しだ、それに三歳で家督次いでグリア軍を率いているのは後にも先にも彼女だけだ、そうですよね殿下!」
「そうですね、確かに大槻さんの言うとおりでしょう、ですが彼女はただ怖いだけではありませんよ、優しい所もあります」
「そうなんですか?」
「えぇ彼女を本気で怒らせる方が悪いんです、アレは無闇に理由無く怒ったりしませんから」
高彬が微笑を見せながらハッキリと言い切った所に、この男のすごさというものを大槻は感じた、そうでなければあの姫提督の婚約者など出来ないだろうと思ったのだ。
「ねぇねぇ萩島君、さっき見た目だけはマリア后妃に似ているって言っていたでしょ?」
「言いましたよ」
「じゃ本当はどんな性格なの、第一皇子に似ていたりするの?」
「そうですねぇ、どちらかというと陛下に似ていると言った方がいいかな」
「陛下に?」
「鶉王(じゅんおう)陛下に似ているって事?」
「確かにサイファ皇子にも似ていますが、どりらかというと陛下にそっくりだと私は思います」
「誰が陛下にそっくりだって!」
皆でサヤの事を評しているとき、突然当の本人が現れて少々機嫌悪く苦情を言った。
それを聞いた周りの者達は慌てて戸惑っていたが、高彬は平然としたものである。
「お前だ」
「それって酷くない?」
「酷いとは思わないが、それより何をしに来たんだここに?」
「例のアレを見に来たんだ」
「なるほど、こっちだ」
高彬はそう言いながらサヤを連れて何処かに行こうとした、それを見送りながら何処に行くのかと問いかけた町田に高彬が答えた。
「集合時間までには戻りますから、自由にしていて下さい」
高彬はそう言い残すと彼女を連れて館内の奥へと消えていく、当然のように護衛もまたついていった。
岡部:「これは凄い写真だ!」
木田:「これがグリア文字かぁ、古代ケルト語に近いのかなぁ」
和田:「言語がわからなければ、書物も読めませんよねぇ~やっぱり……」
木田:「グリア文字は誰も見たことも聞いたことも無かったですからね、今回良い機会ですから萩島に教えて貰えるかもしれませんよ」
岡部:「それはわかりませんよ、グリアの法律は結構厳しいって聞いたことがありますし、萩島でも話せないんじゃないかなぁ」
和田:「皇女に許可を得られれば、教えてくれるかも知れませんよ」
岡部:「皇女はお孫ですからねぇ、この国の女王陛下の許可じゃ無ければダメじゃないかな、それにグリア王国自体がまだよくわかりませんから」
和田:「確かに……」
木田:「とりあえず、一般公開されていない所の見学を許されたんですから、それをしっかり見ておきましょう」
岡部:「そうですね、貴重ですからね」
和田:「では次回 『十話四節:特別見学』!」
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